
はじめに 自分の意見など何もなく、ただのんびりしたいだけのボク
学校の先生の責めるような眼差しと「進路希望調査票」という真っ白な紙を前にして、黙り込んでしまう、高校3年生のお子さん。その横顔を見て、心を強く締め付けられているお母さん。
「君は何がやりたいんだ、どこに行きたいんだ。」とたたみかける先生。 「何を考えているの?」「将来はどうするつもり?」と不安をぶつけるお母さん。 そう問いかけても、返ってくるのは沈黙だけです。
親として焦る気持ち、そして「このままでは社会に出られないのではないか」という恐怖に近い不安を持つ親御さんは多いのではないでしょうか。
特に、発達障害の傾向がある「グレーゾーン」や「境界知能」のお子さんを持つお母さんにとって、高校3年生という時期は、まさに暗闇の中を歩いているような感覚かもしれませんね。 この記事では、自分の意見を言わない(言えない)お子さんの心の中で何が起きているのかを、精神医学の知見や、私自身の体験を通して紐解いていきます。
読み終える頃には、お子さんの「沈黙」が「怠慢」ではなく、その子たちの特性であり、とても真面目に生きていることに気づいていただけるはずです。
悩んでいる親御さん。あなたの子育ては間違っていないし、あなたのお子さんもまっすぐに育っているはず。大丈夫です。ご自分の心労をねぎらい、お子さんの良い所をしっかりと見つめていきましょう。
うちの三男、グレーゾーンボーイです。>>>
私は地方在住の50代の主婦。子どもの教育に関わる仕事を週2回ペースでしている”つつじ屋”といいます。
家族:だんな 定年間近の会社員
長男 大学生 勉強が大好き
次男 大学生 自由が大好き
三男 高校生 ウルトラマン大好き
三男は発達障害グレーゾーンで境界知能の持ち主です。
このブログでは、この三男にまつわるエピソードや困り事を、グチ多めでつづっていきたいと思っています。よろしくお願いします。
「ボクの意見、やる気ってなに?」あるグレーゾーンの高校生の心の声
- 自分の息子の気持ちを想像して書いた詩
- 先生や社会から突きつけられる「意見」という壁
- 「のんびりしたい」は立派な本音

自分の息子の気持ちを想像して書いた詩
まず最初に、私が自分の息子の気持ちを想像して書いた詩を皆さんに読んでいただきたいと思います。
私の三男は、境界知能で発達障害のグレーゾーンという特性を持っています。 彼は、学校や社会が求める「普通の高校生」と同じ土俵に立ったとき、言葉にできない苦しさを一人で抱えているように思いました。

詩「ボクの意見、やる気ってなに?」
ボクは今高校3年 卒業したら働くことになる
でもまだどこで働くのか決まっていない
学校の先生からは 「親じゃなくてお前の意見はどうなんだ」
相談先では「もう少しやる気を見せて欲しいなあ」
ハローワークでは 「自分がやってみたいことはないの?」 とか言われる
やる気って何
学校休んだり遅刻ばっかりするやつも 就職先決まってるじゃん
それってやる気あるの?
ボクは休まず遅刻もしない
授業中に寝たりもしない
それはやる気じゃないの?
いろいろよく分からなくて 親の意見聞いてるのはダメなの?
ボクの意見は「のんびりしたい」
そんなこと言ったら怒るんでしょ
働かないといけないとは思ってる
真面目に仕事できるとも思ってる
「やる気あります!」 って大声で言えばいいの?
ボク、けっこうちゃんとできるんだけどな
しゃべるの苦手だから 分かってもらえないんだ
先生や社会から突きつけられる「意見」という壁

進路指導の場に行くと、決まって言われる言葉があります。
- 「親の意見じゃなくて、君自身の意見を聞かせてよ」
- 「もう少し就職に対して、やる気を見せてくれないかな」
- 「自分がやってみたいことって、何かないの?」
これらの言葉は、一見すると本人の自主性を尊重しているように聞こえます。しかし、もう大人だから将来のことをしっかりと考え、前向きに取り組まなくてはいけない、という圧力がずっしりとのしかかってくる言葉でもあります。
普通の高校生なら、この時はこう答えればいい、というある程度のシナリオが分かります。将来のことなんて何も考えていなくても、「安定しているから自衛隊に入りたい。」とか「パソコンの資格があるから、それを活かせるところで働きたい。」とか、本当は思っていなくても、適当に作文できるわけです。
そういう面談の場でも、「がんばりたいです!」「わたしはこう思います!」とハキハキと答え、印象良く見せることもできます。
しかし、私の三男のようなグレーゾーンの子にとってこうした言葉は、全身に向けて矢を放たれるような感覚にしかなりません。楯も何もない状態で一方的に矢を放たれて、全身でそれを受け止め、「違うんだよ、そうじゃないんだよ、何を言えばいいんだよ、何を求められてるんだよ・・・」と思いながら一本一本刺さった矢を抜いていくのです。
私の三男は「やる気がない」わけではありません。むしろ、学校を休まず、遅刻もせず、真面目に授業を受けている。それは三男にとって最大限の「やる気の証明」なのです。それなのに、面接や面談という「言葉のコミュニケーション」の場になると、途端に評価がゼロになってしまう。この残酷なギャップに、本人は絶望し、親は途方に暮れてしまうのです。

私はこの「君の意見は?」とか「やりたいことはないの?」という質問は、ある意味大人の逃げではないかとも感じています。保身とも言えるかもしれません。
自分のことを振り返って、中高生の時にそんな明確な将来像を持っているなんてありえませんでした。やりたいことも分からないし、自分は何が得意なのかさえよく分からなかったものです。
そういう生徒に、大人は作文をさせているだけだと思うのです。理想とする生徒像に近づけるために。「おれが言ったんじゃない、お前が決めたことなんだぞ。」という逃げを作るために。
私の三男はいつもこの攻撃にやられ、「次にまたちゃんと考えてきてね。」と念押しされて、シュンとして帰ってくるわけです。同席している私も、同じくシュンとして。
「のんびりしたい」は立派な本音

三男が心の中で思っていた「のんびりしたい」という気持ち。 これを「甘え」だと切り捨てるのは簡単です。でも、三男にとって、これまでの学校生活は「普通」に追いつくための全力疾走の連続でした。
小学校では数年支援級にいたものの、中学校からはずっと普通級で過ごし、能力以上のことを求められ続けてきました。中学校では個別指導計画を作ってもらって、かなりの配慮はしていただけていたと感じてはいます。それでも、まったく分からない授業、0点近い点数のテスト、不器用な三男には難易度の高い美術や体育で、「もういいよ~」と思ったこともあるはずです。
高校は不登校や支援級の生徒も受け入れるという話だった学校へ入学したはずなのに、そんな配慮はゼロ。入学当初は学校の体制にモヤモヤを感じた日々でした。(しばらくすると、もうこの学校では何を言っても通じない、と感じ、配慮を求めることは諦めました。)なので、高校ではなおさらたいへんだったと思います。
グレーゾーンの子どもに合った高校の選び方については、発達障害グレーゾーン・境界知能の子どもの高校の選び方で詳しく解説しています。同じように高校選びで悩んでいる方にも読んでいただけると幸いです。
居残りで遅くまで学校にいることも多く、日曜日も受かるはずのない検定に駆り出され、テストでは追試に再追試。そんな三男が、卒業を前にして、これ以上走れない、少し休みたい、静かな場所で自分のペースで生きたい。そう願うのは、三男にとって当たり前の自己防衛反応なのかもしれません。
そうさせてきたのは紛れもなく私でしょう。進路を決めてきたのは私。中学校の時も、休み時間は支援級に行ってのんびりしていたそうです。つまり、ずっと支援級にいたかった。三男はずっと頑張ってきたのです。
それが三男の本音ですが、そんなことを面談の場で言ったら「ふざけるな!」と怒られて終わりです。それが自分の考えです、と言ったところで誰も認めてはくれません。それは大人が求める答えではないから。その言葉の裏にある背景までを語らせてはもらえません。
親の意見に従ってしまうのも、決して主体性がないからだけではありません。「親が言うことなら、大間違いはないはずだ」「自分で決めて失敗するのが怖い」という、彼らなりの信頼と慎重さの表れでもあるのです。
三男のようなグレーゾーンのお子さんは、成功体験が極端に少ない場合があります。自分が考えてやったことが認められたことがなく、自分の考えに自信が持てないでいるのです。自己肯定感が低く、「こんな事言ったら怒られるんじゃないか。」「どうせ間違っているし。」と思ってしまっていたりします。
でも、自分の親はずっと近くで自分のことを見てきているし、自分の考えも分かってくれる。そんな親が言うことならよっぽど大丈夫だろう、と親の意見に従うことも多いでしょう。
「のんびりしたい。」という三男がずっと言い続けている言葉は、まさしく彼の本音。「そうだよね。」と今の私は思っています。
なぜ自分の意見が言えないの?精神医学から見る「受動型」の脳の仕組み
- 「世界モデル」が未熟で、情報を言葉に変換するのが苦手
- ビジュアルシンカー(視覚思考者)にとっての言葉の壁
- 10代の脳は「感情のブレーキ」がまだ工事中

精神科医の益田裕介先生は、自分の意見が言えない発達障害(特に受動型ASD)の方々の脳内で何が起きているのかを、非常に分かりやすく解説されています。
「意見を言わない」のではなく、脳の仕組みとして「意見を外に出す(言語化する)プロセスに課題がある」という視点を持つと、お母さんの接し方も少し楽になるかもしれません。
ここで、受動型ASD(じゅどうがたエーエスディー)について簡単に解説します。
【受動型ASD】
ASD(自閉スペクトラム症)のタイプの一つ。自分から積極的に関わることは少ないが、人からの誘いや指示には拒まずに従う傾向がある。一見すると「おとなしくて手のかからない良い子」に見えるが、自分の意思を伝えるのが苦手で、ストレスを溜め込みやすいという特徴がある。
受動型の子が意見を言えない理由として、以下の3つのポイントが挙げられます。
- 「世界モデル」の情報の偏りと貧困さ
- ビジュアルシンカー(視覚思考)による言語化の遅れ
- 10代特有の脳の発達段階(感情と理性のアンバランス)
これから、これらの要素について詳しく解説していきます。
「世界モデル」が未熟で、情報を言葉に変換するのが苦手

益田先生は、人間の脳を「AIモデル」に例えて説明されています。
私たちは日々の経験や知識を脳に取り込み、自分なりの「世界とはこういうものだ」というシミュレーションモデルを作り上げます。これを「世界モデル」と呼びます。
【世界モデル】
脳の中に作られた「世の中の仕組み」の雛形(ひながた)。過去の経験から「こういう時はこうなるはずだ」と予測する機能のこと。
グレーゾーンのお子さんの場合、この「世界モデル」の構築に特有の偏りがあることが多いのです。
- 興味のあることには詳しいが、それ以外の社会的な情報が入ってこない。
- 変化を嫌うため、新しい経験を避けてしまい、データの種類が不足している。
- 抽象的な概念(「やる気」「将来」など)をモデルに取り込むのが苦手。
モデルの中にデータが十分に揃っていない、あるいは整理されていない状態では、外から「君の意見は?」と入力されても、脳は適切な答えを出力できません。コンピューターで言うところの「フリーズ」状態になってしまうのです。
ビジュアルシンカー(視覚思考者)にとっての言葉の壁

グレーゾーンのお子さんの中には、言葉ではなく「映像」や「図」で物事を考える「ビジュアルシンカー」が多く存在します。 彼らの頭の中には、美しい景色や、具体的な作業のイメージ、あるいは言葉にならない「快・不快」の感覚が広がっています。
しかし、学校の先生やハローワークの担当者は「言葉(言語)」での回答を求めます。 頭の中にある鮮やかな映像を、拙い「言葉」というフィルターに通して出力する作業は、彼らにとって翻訳作業のように時間がかかり、エネルギーを消耗する仕事です。 結局、「わからない」と言って口を閉ざすのが、彼らにとって最も安全な選択肢になってしまうのです。
感情や気持ちを言葉にすることが苦手なグレーゾーンの子どもの特徴については、境界知能グレーゾーンの子どもの特徴 共感力がとぼしく、悲しみや自分の感情も分からないでも詳しく触れています。
10代の脳は「感情のブレーキ」がまだ工事中

脳科学的に見ると、高校生の脳はまだ完成していません。 感情を司る「大脳辺縁系(だいのうへんえんけい)」は活発に動いていますが、それをコントロールする理性的な「大脳皮質(だいのうひしつ)」、特に前頭葉の部分は、20代半ばから30代まで成長が続くとされています。
つまり、ただでさえ「将来への不安」で感情が揺れ動きやすい時期なのに、それを理性的に整理して言葉にする力が追いついていないのです。 グレーゾーンの子であれば、その発達のアンバランスさはさらに顕著になります。 「不安でパニックになりそう、でもそれをどう伝えればいいか分からない」という葛藤の中にいることを、ぜひ知っておいてあげてください。
発達障害グレーゾーンの高校生が抱える「見通しの不安」
- 「普通」の土俵で戦うことの難しさと二次障害の危険性
- 「やる気」の定義は人それぞれ。休まず通うのは立派な才能
- 親が「社会の象徴」に見えてしまう心理的な緊張感

「進路が決まらない」「見通しがつかない」という状況は、グレーゾーンのお子さんにとって、強いストレスや恐怖さえも感じる可能性があります。
【見通しの不安】
次に何が起こるか、将来どうなるかが予測できないことに対して感じる強い不安感。ASD傾向のある人に多く見られる。
この不安が強まると、思考が停止し、ますます自分の意見が言えなくなります。このセクションでは、彼らが抱えている不安の正体について、以下の項目に沿って解説します。
- 「普通」の土俵で戦うことの難しさと二次障害の危険性
- 「やる気」の定義は人それぞれ。休まず通うのは立派な才能
- 親が「社会の象徴」に見えてしまう心理的な緊張感
これから、それぞれの詳細を見ていきましょう。
「普通」の土俵で戦うことの難しさと二次障害の危険性

一般の高校生と同じように就職活動をすること。それは、三男にとって非常に過酷な経験でした。
履歴書で志望動機を考えて書き、面接で「自分の強み」をアピールして、質問に瞬時に対応して答え、他者と競い合う。 境界知能や発達障害の特性を持つ子にとって、これは「足が不自由な人に、100メートル走で健常者と同じタイムを出しなさい」と言っているようなものです。
雇う側にしてみれば、即戦力で仕事のできそうな、頭の回転の速そうな人を採用したいはずです。筆記試験と短い面接の場で自分をしっかりアピールできる能力、作文であろうが演技であろうが、会社ののぞむ人材になれることが重要です。
採用試験の場で、その子の特性や人物像なんて深彫りしてはもらえません。三男が選ばれないのも当然の結果だったと思います。
努力ではいかんともしがたい部分で負け続けると、子供は「自分はダメな人間だ」という強い劣等感を抱きます。これが原因で、うつ病や引きこもりなどの「二次障害」を引き起こしてしまうことが、最も避けなければならない事態です。
グレーゾーンの子どもの将来について、支援が届きにくい現実と私が感じてきたことを、グレーゾーンの子供の将来 支援が届かない発達障害の子どもたちでお伝えしています。
三男は、採用試験に落ちてしまったことで、落ち込んだりすることはありませんでした。(それもどうかとも思うのですが・・・)それでも今後のことを話すと「知らんし。どうでもいい。」と投げやりな答えをしてきました。三男なりに傷ついていたのかもしれませんね。
その後も一般企業への体験へ行ったりもしましたが、三男の能力的にやはり無理があるのではないかと考え、福祉サービスの利用も考え始めました。三男の気持ちに近づいて、少しのんびりできる将来を考えたのです。あのまま次々と一般企業の採用試験を受けていたら、さすがの三男もこたえたことでしょう。「もう働かない!」と引きこもってしまった可能性もあります。
グレーゾーンのお子さんは、普通の子たちと同じ土俵で戦おうと思えば戦えます。でも勝率はかなり低いでしょう。その戦いでダメだったとしても、それはその子がダメというわけではありません。「あなたが否定されたわけではないから大丈夫」というメッセージを伝えてあげましょう。平気そうに見えても、言葉で伝えてあげることでお子さんの安心感と自己肯定感を保つことができますよ。
「やる気」の定義は人それぞれ。休まず通うのは立派な才能

先ほどの詩にもありましたが、大人たちが求める「やる気」は、往々にして「ハキハキとした挨拶」や「積極的な質問」といった外側に見えるパフォーマンスです。 しかし、グレーゾーンの子のやる気は「内側」にあります。
- 毎朝決まった時間に起きる。
- 休まず遅刻せず学校へ行く。
- 嫌な授業でも静かに座って受ける。
これらは、彼らにとって並大抵の努力ではありません。脳のエネルギーを人一倍使いながら、毎日を必死に生き抜いている。この「継続する力」「真面目さ」こそが、彼らの持つ最大の武器であり、立派な「やる気」の証なのです。
しかしながら、そうした行動が「やる気」だとは思ってもらえないのが現実です。なぜならそれはできて当たり前のことだから。でも本当にできて当たり前でしょうか?
三男の通っていた学校の生徒さんの中には、学校を休みがちだったり、何回も遅刻早退をしたり、授業中にずっと寝ていたり、 勝手に検定をさぼったりする人もいるそうです。そういう生徒さんも、採用試験では相応にふるまえるので、何の問題もなく採用されます。
「やる気」は言葉にしないとなかなか伝わらないのかもしれません。やる気や自分の意見が言えないことは、社会で生きていくにはやはりハンデになると言えます。でも、たとえば「絶対休まない」という面を評価してくれることもあります。
親である私たちは、世間の物差しで測るのではなく、この「目立たない努力」を一番に評価してあげたいものです。
親が「社会の象徴」に見えてしまう心理的な緊張感

高校生にとって、親は単なる同居人ではありません。 無意識のうちに「自分を評価する大人」であり、「社会のルールを体現する存在」として見ています。 特にお母さんが「将来が心配」「早く決めてほしい」というオーラを出していると、子供は親に対して過度な緊張感を抱いてしまうことがあります。
親を怖がっているわけではなく、親の期待に応えられない自分を責めてしまうこともあります。だからこそ、一番身近な親の前でさえ、本音を隠し、殻に閉じこもってしまうという現象が起きてしまいます。
グレーゾーンの子どもが親の意見に従うのは、自分に自信がなかったり、成功体験が少ないため、こうすれば大丈夫というラインが体得できていないためでもありますね。
進路に悩むお母さんへ。子供の「誠実さ」を守りながら進む道
- 一般就労だけじゃない、福祉的就労という「安心の選択肢」
- 家庭を安心できる場所に保つために親ができること
- 専門家やカウンセリングを「親の避難所」にする大切さ

「就職先が決まらないまま卒業してしまうかもしれない」 その不安は痛いほどわかります。でも、三男の経験を通して私が学んだのは、「子供の良さを殺してまで、無理やり社会に押し込む必要はない」ということです。
焦って合わない職場に就職し、数ヶ月で心身を壊して辞めてしまうよりも、少し時間をかけてでも「ここなら自分らしくいられる」という場所を探す方が、長い人生で見れば近道になります。 このセクションでは、具体的な向き合い方についてお話します。
- 一般就労だけじゃない、福祉的就労という「安心の選択肢」
- 家庭を「ラーニングゾーン」に保つために親ができること
- 専門家やカウンセリングを「親の避難所」にする大切さ
これらのポイントについて、これから詳しくお話ししますね。
一般就労だけじゃない、福祉的就労という「安心の選択肢」

学校やハローワークは、どうしても「一般企業への就職」をゴールにしがちです。 しかし、境界知能やグレーゾーンのお子さんにとって、一般就労のスピード感や複雑な人間関係は、キャパシティ(脳の容量)を越えてしまうことがあります。
そこで検討してほしいのが「福祉的就労」です。 就労移行支援や就労継続支援(A型・B型)など、専門のサポーターがいる環境で働くという道があります。
三男は一般就労ではなく、就労継続支援A型の採用が決まりました。最終的に採用が決まったのは2月初めで、決まるまでは本当にハラハラしていました。
就職活動の詳しい経緯やデータについては、境界知能・発達障害グレーゾーンの子どもの就職 データで見る現実と我が家の選択にまとめています。合わせてご覧ください。
当初は学校を通して一般就労の採用試験を受けていましたが、「ここなら何とか大丈夫かな。」と思った企業には採用されませんでした。次に見学に言った企業も、すぐに三男には厳しい場面が出てくることが予想され(運転免許、フォークリフトの免許など)、通勤もかなり困難であったこともあり、諦めました。
ハローワークにも何度か通いましたが、並行して動いていたのが福祉サービスを利用して働く方法を探すことです。就労移行支援サービスを考え、何ヶ所か見学や体験に行きました。そのうち、一か所三男に合った所も見つかりました。しかし、就労移行支援は就職予備校のようなもので、お給料はもらえません。2年のうちに就職先を探すことになります。
そうしていろいろ模索している中で、三男の就職が決まった就労継続支援A型の施設を見つけ、体験、就職試験、面接を経て、無事に採用されることになりました。
お子さんが長く勤められるように、 「障害枠での雇用」や「福祉サービス」を利用することは、負けでも何でもありません。むしろ、本人の「真面目さ」や「優しさ」を活かし、守るための賢い戦略なのです。お子さんの状態をよく見極め、お子さんに合った環境で、社会に出ていく準備を進める感覚で、こうした福祉サービスを利用するのはよい選択だと思います。

<就労移行支援サービス>
・ 就労移行支援サービス
就労に必要な知識及び能力の向上のために必要な訓練や、就労に関する相談や支援を行うサービス。訓練をしながらできるだけ早く本人の適正に合った職場への就労と定着を目指す。
・ 就労継続支援A型
企業と雇用契約を結び、最低賃金以上の収入を得て、就労に必要な知識や能力を身に着け、一般就労を目指す事業所。
・ 就労継続支援B型
一般企業や就労継続支援A型での就労が難しく、サポートやトレーニングが必要な方のための事業所。以前は作業所などとよばれていた。賃金は工賃として支給され、多くは望めない。
家庭を安心できる場所に保つために親ができること

益田先生は、成長のために必要な環境として「ラーニングゾーン」という考え方を提唱されています。
【専門用語:ラーニングゾーン】
「コンフォートゾーン(楽すぎる場所)」と「パニックゾーン(苦しすぎる場所)」の中間にある、適度な負荷がかかる成長に最適な領域のこと。
進路に悩む高校生は、すでに学校や社会によって「パニックゾーン」に突き落とされています。 せめて家庭だけは、彼らにとっての「コンフォートゾーン(安心できる場所)」であり、せめて少しだけ頑張れば手が届く「ラーニングゾーン」までであってほしいのです。
- 「進路の話は、週に一度、土曜日の午前中だけにする」と決める。
- 「意見」ではなく「イエス・ノー」で答えられる質問に変える。
- 「決まらなくても、家には居場所がある」ことを言葉で伝える。
親が「何があってもあなたの味方だよ」という姿勢を崩さないことで、お子さんの自己肯定感は保持され、社会に出るというチャレンジに向かうことができます。
お子さんの良い所、できていることに注目し、その良さを言葉で伝えてあげましょう。
専門家やカウンセリングを「親の避難所」にする大切さ

多くの親御さんは、 お子さんの特性を理解しようと勉強し、学校やハローワークを駆け回り、我が子の将来を思って夜も眠れない日々を過ごしてこられているはずです。
でも、親御さん自身の心が限界を迎えてしまうと、お子さんを支えるエネルギーが枯渇してしまいます。また、親世代は、更年期や親の介護、仕事の責任など、自分自身も「うつ」になりやすい時期にあります。 お子さんのカウンセリングだけでなく、親御さん自身の避難所を持ってください。
それはどこでも誰でもいいのです。でも、いわゆるママ友には、グレーゾーンの子供を持つ上での苦労はなかなか通じないかもしれません。夫婦間、祖父母など、じっくり聞いてもらえるならそれで充分ということもあるでしょう。
もっと思い詰めてどうしようもなくなったら、心療内科などの専門家にアドバイスを求めてもいいと思います。カウンセラーにそうだんするのもいいし、公的な相談事業を行っている自治体も多くあります。
専門家に「今の苦しさ」を吐き出すことは、決して親の弱さではありません。「もう無理なんです。どうしたらいいのかわかりません!」と投げ出すような内容を話してもぜんぜんOK。そこで「お母さんが頑張らないでどうするんですか。」みたいなことを言われたら、もうそこへは行かなくていい。分かってくれる人、寄り添ってくれる相談先は必ずあります。
弱音を吐くことは悪いことではありません。むしろ、お子さんをこれからも守り続けるための「メンテナンス」なのです。
まとめ 就職先が決まるのは、少し先になっても大丈夫

三男の就職活動は、世間一般の基準で見れば「遅れていた」と言えます。 でも、私はそれでよかったと思っています。 彼の持つ「真面目さ」「休まず通う誠実さ」「人一倍の優しさ」。これらは、一度壊れてしまったら取り戻すのがとても難しい、宝物だからです。
学校の先生に「自分の意見は?」と問い詰められても、ハローワークで「やりたいことは?」と聞かれても、答えられなかった三男。一般的な就職活動ではそれは致命的と言えるのかもしれません。しかし、三男を受けいれてくれた事業所は、彼のできる所に注目し、笑顔や人あたりの良さも評価してくれました。
もし今、あなたのお子さんが自分の意見を言えず、進路が決まらずに悩んでいるとしたら、どうかこう言ってあげてください。 「焦らなくていいよ。あなたの真面目さを分かってくれる場所を、一緒にゆっくり探そう。」同時に、「何もしないことはできない。必ず次の居場所を見つけて、独り立ちできる力はつけなくてはいけない」ということも明言しておきましょう。
就職先が決まるのは、卒業した後でも、数年後でも大丈夫です。 一番大切なのは、お子さんが「自分はこのままの自分でいいんだ」と自分を愛せるようになること。そしてお親御さんが、笑顔でその隣にいてあげることです。
一人で悩みを抱え込まないでくださいね。 発達障害の特性や、脳の仕組みをより深く知ることで、見えてくる希望があります。益田先生の著書や専門的なカウンセリングは、きっとあなたとお子さんの暗闇を照らす灯台になってくれるはずです。
🌟今、あなたにできる最初の一歩
お子さんの特性をより深く理解し、お母さんの心を軽くするために、こちらの書籍が非常に参考になります。精神科医の視点から、生きづらさを抱える人たちへの優しい眼差しが詰まった一冊です。

[ 樺沢 紫苑 著「精神科医が見つけた 3つの幸福」]
これは「幸福論」ではなく、初めての「幸福の実用書」です。
出典:Amazon
「幸福」とは、「脳内物質」だった!
コロナ禍、人生100年時代、AI化、スマホ依存
現代のあらゆる問題を1冊で解決!
簡単にできる習慣だけ! 最新データとエビデンスをもとに、人生を充実させる方法を具体的にわかりやすく教えるまったく新しい本!
(あとがきに変えて)
この記事は、境界知能と発達障害グレーゾーンの息子を持つ一人の母親の願いから生まれました。
三男は今日も、彼なりのペースでゆっくりと歩んでいます。 同じ空の下、同じように我が子を想い、悩んでいるあなたへ。 この記事が、あなたの心の重荷を少しでも軽くするきっかけになれば幸いです。










