
学習塾を運営して20年近くになります。
これまで数えきれないほどの子供たちと向き合い、多くの言葉を交わしてきました。指導者として「子供を褒めて伸ばす」ことは常に心掛けているのですが、先日、小学4年生の女の子から思いがけない「褒め言葉」をもらいました。
その時、私は自分でも驚くほど素直に「あぁ、嬉しいな」と感じたのです。そして同時に、20年やっていてもなお、子供から教わることがあるのだと背筋が伸びる思いがしました。今日は、そんな小さな教え子との対話から見えた、子供との向き合い方についてお話しします。
先生だって、子供に褒められれば素直に嬉しい
- 「算数なんてわかんない!」ごねる彼女が見せていたサイン
- 「先生はすごい」への私の返しが、彼女の心に響いた理由
- 子供は大人の「能力」と「誠実さ」をシビアに見分けている
「算数なんてわかんない!」ごねる彼女が見せていたサイン

その日、彼女は算数の問題を前に、すっかり後ろ向きになっていました。「わかんない!」「やりたくない!」とごねる姿は、中学受験という壁を前にした小4生らしい葛藤の表れでもありました。
彼女は同学年の生徒さんと比べて、算数はとてもよくできます。英語も学習していますが、英語の呑み込みもとても早いです。周りの友だちからすれば、「頭のいい人」と思われ、うらやましがられているはずです。そんな彼女でも、勉強に対して自信を無くしたりすることがあるのです。

彼女が目指しているのは中高一貫校。「高校受験をするより、こっちの方が楽だと思うから」と彼女は言います。「でも、大学まで行くんだよね?大学受験はまたあるよ?」と私が聞くと、「そうだけどさ、受験する間があくから、ちょっとゆっくりできるじゃん。」ということです。
彼女の言葉に、私はこう返しました。「中学受験もとても大変だし、合格してからもきっと競争は激しいよ。中学受験も高校受験も、私らないといけないことは変わらない。どっちも負けないくらい大変だよ。楽な道はないと思うけどな。」
彼女がそれほどまでに「楽」を求める背景には、少し眩しすぎる身近な存在があったのかもしれません。

それは彼女の中学2年生のお姉さん。お姉さんも私の教室へ通ってくれていました。お姉さんもとてもよくできる生徒さんで、学校の成績は体育以外オール5。学年1位を何度も取っています。
吹奏楽部に所属し、部活もとても頑張っていて、大きな大会へも出場しています。
お姉さんの実力なら、地域ではトップの高校へ入れます。でもそのお姉さんは、地域トップの学校もいいけど、吹奏楽に力を入れている別の学校も視野に入れているようです。学力に自信があるからこその選択肢の広さです。
私の住む地域で中高一貫校ができるのは2026年度からです。したがって、このお姉さんが中学へ入学する時にはまだ中高一貫校はありませんでした。
そんなでき過ぎのお姉さんをまじかに見て、彼女は少なからずプレッシャーや劣等感を感じていたのかもしれません。お姉さんと同じ道を進んでもお姉さんにはかなわないから、彼女なりに状況を変えたいと思っているのかも、とも感じました。
もう一度言いますが、彼女自身もとてもよくできる生徒さんです。本当はそんなプレッシャーや引け目を感じる必要はないのに、それでもそんな感情を持ってしまうことがあります。
「先生はすごい」への私の返しが、彼女の心に響いた理由

ひととおりごねた後、私の解説を聞いていた彼女が、ふと真剣な顔で言いました。 「先生って、やっぱりすごいよね。めっちゃ頭いいよね。なんでそんなに何でもパッと解けるの?」
ストレートな称賛でした。いえ、本当はまったくすごくはないのです。20年運営していれば当たり前にできることです。それでも子供の純粋な瞳に「すごい」とうつるのは、大人として、教育者として、やはり悪い気はしません。が、むしろ、勉強を教えているのだったら、生徒さんからそう思ってもらわなくてはいけないとも思っています。
生徒にすごいと思ってもらえたことは嬉しいのですが、このままでは「先生は頭がいいからできるんだ。」という先入観を与えてしまいます。「頭がよくなけれなできないんだ。」と。そこで私は彼女にこう返しました。

「先生はね、すごいんじゃないんだよ。毎日毎日、同じことばかりやってるから、できるようになっただけ。何回も繰り返しているだけなんだよ」
そう伝えると、彼女は意外そうな、でもどこか納得したような表情を浮かべました。「え、同じこと続ければ先生みたいに計算早くなるの?」と彼女。「そう。ひとつできるようになったらまた次、また次、ってどんどん積み重ねていくんだよ。その努力ができる人が一番強いの。」
そう伝えると、「じゃあわたしも続けてたらいつか天才になれるかな。」と彼女は言いました。その表情は、半分信じられないような、でも半分は安心したような、穏やかなものになっていました。
大人が「天賦の才能」ではなく「繰り返しの努力」の結果だと正直に明かすことは、算数に苦戦する彼女にとって、小さな救いになったのかもしれません。
子供は大人の「能力」と「誠実さ」をシビアに見分けている

そして、興味深いことに、彼女は他の先生のところへは聞きに行こうとしません。私の教室には他にも先生がいますが、彼女の中には明確な「見極め」の基準があるようです。
子供、特に小学校高学年に差し掛かる時期の子は、大人の能力を非常にシビアに観察しています。「この人は本当にわかっているか」「この人は自分をごまかそうとしていないか」。
もちろん先生との相性という問題もあります。他の先生方に私がとても助けられていることも確かです。それでも、教え方のツボであったり、わかりやすい伝え方という点において、他の先生方よりもできることは多いと思っています。
私が「受験や勉強は楽じゃない」と現実を伝え、「自分は繰り返し練習しているだけだ」と手の内をさらけ出したこと。その嘘偽りのない等身大の発言が、彼女には「誠実」にうつり、信頼の足場になったのだと感じます。彼女は大人の「能力」を見分けている以上に、その裏側にある「人間性」を見極めているのです。
これは彼女だけでなく、他の生徒さんにも言えます。子供ってすごく大人を観察しています。ごまかしは通じません。適当にあしらうと、全て見通しです。
かっこよく見せる必要はありませんが、ごまかさずに、真正面から向き合うことは必須です。
お母さんたちへ。算数嫌いの子供との距離を縮めるのは?
- 「親として完璧な背中を見せなければ」と頑張っている方も多い
- 私は教室にいる時、失敗や間違いをおおげさに話します
「親として完璧な背中を見せなければ」と頑張っている方も多い

日々、お子さんの教育に悩むお母さんたちの中には、「親として完璧な背中を見せなければ」と頑張っている方も多いのではないでしょうか。
でも、20年現場にいて思うのは、子供が本当に心を開くのは、大人の「完璧な姿」に対してではない、ということです。
いったん、自分事として考えてみてください。自分が子供だったら。立派な親を見ていて、尊敬はするかもしれませんが、だんだん疲れてきませんか?失敗しない、間違わない、そんな完璧な親には、自分の悩みとかわかってもらえそうにないと思いませんか?
親だって常に完璧でいようとすれば疲れますよね。弱音だって吐きたい時もある。失敗もするし上司に怒られることもある。当然ですよね。非の打ちどころのない完璧な人間なんて、滅多にいません。まして子育てなんて、誰もが初めての経験ですし、何が正解なのか誰にもわからない、謎だらけのミッションです。
大切なのは、きちんと子供の話を聞くこと。頭ごなしに否定せず、最後まで聞いてあげましょう。そしてまずは「そうか、なるほど。」と受け止めてあげましょう。そのうえで、親がこれまで生きてきた経験からの事実を伝え(ここポイント。アドバイスではなく事実を伝える。)、「こうしたらいいかも、こういう方法もあるよ。」と問題解決のための道筋を一緒に考えられたらいいですよね。
けれど、これも思春期や反抗期の子供には通じないでしょうね。そもそも話をしてこない。親としては怒り心頭という場面も多々あるでしょう。でも大丈夫。放っておきましょう。ホントに大丈夫。

家では何も話さないお子さんも、私の教室ではあれこれと話してくれます。成績のこと、部活のこと、将来のこと。きちんと礼儀正しく、敬語で。これは私が他人だから。そこをわきまえられるくらい、成長しているということです。
反抗期のお子さんをお持ちで、やきもきしている親御さん。家を出たら礼儀正しく優しい青年に成長しているはずですよ。
私は教室にいる時、失敗や間違いをおおげさに話します

私は学習塾の教室にいる時、失敗や間違いをおおげさに話します。注文しなければならない物品を注文し忘れることはままあって、「うわ、先生、また忘れたの?大丈夫?」なんて心配されたりします。計算ミスは当然全力で謝ります。ごまかさないで、自分の非は両手をあげて認めます。
でも、その日にその生徒がやるべきことについては妥協しません。状況はその都度変わりますが、基本的にやることはやってもらいます。譲れないラインはきちんと説明し、「なんでもあり~。なんでもいいよ~。」ということにはしません。
何とかやり遂げることができれば、めちゃくちゃ褒めます。そして頑張ってくれたことへの感謝も伝えます。頑張らせるのは大人のエゴと言える部分もあると思うからです。
先生は上から教えたり指導するだけではありません。生徒がいての先生。子供がいてこその親。そこは対等な関係だと思うのです。先生だから、親だからえらいということはありません。子供に対しても、一人の人としてのリスペクトをもって接すると、とびきりの笑顔を返してくれる瞬間があります。
帰り際に「難しかった。」と涙を浮かべていた子が、次の教室で「宿題、完璧にできた!」なんて言ってくれるのが、何よりのご褒美です。
大人だって、子供に褒められれば嬉しい。それを隠さず「ありがとう、嬉しいよ」と伝え、自分の弱さや裏側も少しだけ見せてみる。そんな「一人の人間同士」のやり取りが、学習のモチベーションや信頼関係を築く一番の近道になるはずです。
1.「ありのままの自分を見せる」に合う一冊
『子どもとの関係が変わる 自分の親に読んでほしかった本』 (フィリッパ・ペリー 著)

\ 20年の指導経験からもおすすめします /
今回お話しした「大人も一人の人間として向き合う」という考え方を、心理学の視点からとても分かりやすく解説しているのがこの一冊です。 子供にどう接すればいいか迷ったとき、私も読み返して「肩の力を抜いていいんだ」と再確認しています。親子関係に悩むお母さんに、ぜひ手に取っていただきたい本です。
先生は同じことしてるだけよ!算数が嫌いの小4女子に褒められた話 まとめ
- 今日も教室で、子供たちから「正解」を教わっている
- 「さらに深く知りたい方へ」

今日も教室で、子供たちから「正解」を教わっている
「先生はすごいよね。」 彼女がくれたこの言葉は、私に生徒と向き合うことの意味をもう一度考えさせてくれるきっかけになりました。すごいのは何なのか。じゃあその子のすごさは、あの子のすごさは?
あの子は野球をずっと続けている、あの子はいつもニコニコしている、あの子は宿題を忘れたことがない、あの子はご飯をいっぱい食べる、それぞれにいい所はきっとあります。
親や先生といった大人は、その良さにどれだけ気づけるか、その良さを本人に伝えられるかが大切だと思います。案外本人も気づいていないこともあります。「あなたのいい所、ちゃんと知っているよ。」そのメッセージを伝えることが、子どもの心に近づける一歩だとも思っています。
これからも私は、中学受験という高い山に挑む彼女の伴走者として、「すごい先生」ではなく「正直な大人」であり続けたいと思います。
もし、お子さんとの関係や学習環境に迷うことがあれば、まずは一人の人間として、等身大の対話を始めてみませんか?
つつじ屋子ども向けの塾を20年近くやっている経験をもとに、
記事を書いてみました!



嫁様はまだ働きますが、
私は定年でもう用なしです…。
「さらに深く知りたい方へ」
「今回のエピソードでお伝えした『完璧じゃない大人の姿』が、なぜ子供の心を救うのか。その理由をより深く知りたい方には、こちらの本が本当におすすめです。私も20年の指導経験の中で、何度もこの考え方に助けられました。」
1.「ありのままの自分を見せる」に合う一冊
『子どもとの関係が変わる 自分の親に読んでほしかった本』 (フィリッパ・ペリー 著)


\ 20年の指導経験からもおすすめします /
今回お話しした「大人も一人の人間として向き合う」という考え方を、心理学の視点からとても分かりやすく解説しているのがこの一冊です。 子供にどう接すればいいか迷ったとき、私も読み返して「肩の力を抜いていいんだ」と再確認しています。親子関係に悩むお母さんに、ぜひ手に取っていただきたい本です。
おすすめ理由
「大人も自分を大きく見せない」「一人の人間として向き合う」という姿勢を、心理学的・教育学的な視点から強力にバックアップしてくれる本です。「親(大人)が自分の感情や不完全さをどう扱うか」が子供の信頼にどう直結するかを詳しく解説しています。
2. 「小4女子・中学受験・親のメンタル」に寄り添う一冊


『「二月の笑者」になるために』 (おおたとしまさ 著)
(算数を嫌がっていた女の子のエピソードの後に)
\ 中学受験を控えたご家庭へ /
「お姉ちゃんはできるのに…」「算数がわかんない!」そんなお子さんの葛藤をどう受け止めるべきか。受験という高い山を、親子で笑顔で乗り越えるためのヒントが詰まっています。 塾講師の視点から見ても、今この時期のお母さんに一番読んでほしいバイブル的な存在です。
- おすすめ理由
記事に登場した女の子のように「中学受験」というプレッシャーの中にいる親子に贈る、最新のバイブルです。人気漫画『二月の勝者』を題材にしつつ、「合格」だけではない「親子で笑顔で終わる(必笑法)」を説いています。特に「お姉ちゃんと比べてしまう」「算数ができない」と悩むお母さんたちの心を軽くしてくれます。
3. 「プロの塾講師としての視点」を補強する一冊
『子どもの自己肯定感を高める10の魔法のことば』 (石田勝紀 著)


(まとめのセクションや、記事の最後の方に)
\ 指導の現場で役立っている一冊 /
20年近く子供たちと向き合う中で、私が大切にしている「言葉がけ」の本質を言語化してくれている本です。 記事の中で紹介した「先生は同じことを繰り返しているだけ」という言葉のように、子供の心を動かす魔法のヒントがここにあります。教育のプロも認める一冊、ぜひチェックしてみてください。
- おすすめ理由
長年現場で子供たちを見てきた著者による本です。「先生は同じことを繰り返しているだけだよ」と正直に伝えたように、子供の心を動かすのは小手先のテクニックではなく「言葉選び」であることを教えてくれます。教育のプロが書いた本であり、教育現場の人向けではありますが、親御さんにとっても心に響く内容です。

















